MENU
research subject
中鹿 直樹 / Nakashika Naoki
すべての「できる」は援助付き
「立命館大学で行動分析をご専門に、「学生ジョブコーチ」という実践・教育・研究活動を行う中鹿さん。就労支援に関わったいきさつと内容、今回の研究との結びつきを伺いました。

学生ジョブコーチの支援の様子(模擬場面) 


行動分析を研究することになったきっかけ


ー心理学というのがあると知ったのは、大学に入学する前だったと思います。人の心持ちによってパフォーマンス(遂行状況)が変わる。というような研究を見たのが最初です。立命館大学に入学して行動分析という考え方に出会い、研究を続けています。学部生の頃はスケジュールパフォーマンスというのをやっていて、このスケジュールというのは、行動分析の分野の一つで「強化スケジュール」という考え方です。元々は動物で見つけられた行動の原則が人間にも当てはまる時と、当てはまらない時があるといったものですが、私は人に当てはまるかどうかよりも、日常的なことを実験室場面でやってみたらどうなるかということを人を相手に実験していました。
人を相手に実験、研究をしていた中鹿さんですが、その後は大学院で動物を相手に研究をして行ったそうです。


ハトを使った実験


ー大学院の時に、自己というものを行動分析的に考えられないか?というようなことに興味がありまして。その方向だったら、まず自己というのは社会の中で形成されるものだから、まずその社会的な場面を考えるところから始めてはどうかというアドバイスをいただいて、観察学習や模倣の分野をハトを使って研究していました。具体的には、装置に2羽のハトを入れて、一方のハトはランプに従って動けるように。もう一方のハトはランプの手がかりが無い状態で箱に入れます。ランプがないハトは何を手がかりにするかというと、相手が今どこにいるかというのを手がかりにして動く。要するに、相手のことに注目するとかしないとかいう話ですね。

ハトを使った実験で、自己についての研究を行っていた中鹿さん。一見、就労支援とハトの実験は結びつかないように思います。しかし、行動分析と就労支援は始まりの時から繋がっているそうです。


行動分析と就労支援の結びつき


ーアメリカの話ですが、アメリカではもともと「重い障がいのある人たちでも働ける」と提唱したのは行動分析の人間なんですよ。つまり、そういう手法を持ってた、あるいは考え方を持ち得た。誤解を恐れずに言うと、ハトをどう動かすかにもやはりいろんな原理、原則がある訳です。それと同じ行動の原理を使って、人間でもあるステップを踏めば難しいと思われていた仕事もできるだろうということです。福祉の分野での指導法や、ジョブコーチで使われている、どのように支援するのかという手法も実は行動分析なんですね。80年代に行動分析の雑誌で就労支援が大きく取り上げられていたのを覚えています。そうやって分解すると、私がやっていたハトの実験や、そういった細かい実験が積み重ねられた話になるんです。私自身、今までやってきた実験がシームレスに繋がっていると感じたのがとても面白かったです。

他にも海外において行動分析は、就労支援だけでなく様々な分野で応用されているそうです。一方、日本での広がり方とその使われ方は少し違っていると中鹿さんは考えます。


ー行動分析の考え方は、外国では組織のマネジメントや、コンサルタントの分野の支援に応用されているのですが、日本の場合、行動分析は特別支援の方で広がったんです。子供が問題行動を起こしている、じゃあどうすれば良いか。みたいなときの、問題が起きた場合の解決法として使われがちなのが現状だと思います。それは一つの強みなのですが、元々の行動分析の考え方は実はそうではないと思うんですね。何かとやかくできることを目指すというよりも、その人にどのようなフィットした環境があれば、最大限の能力が発揮できるのかということだと思うんです。普段、例えば障がいがあると周りの人が手を出したりするからなかなかできない子だと思われているけれど、実はちょっとその子に合った環境を与えてあげると生き生き動きだすとか。何かやったら褒められたとか、自分で達成感を得られた、何かできたということで広がっていくものを一つでも増やしていくことを支援しようというのが私たちの考え方なので、問題行動をなんとか解決するというものではない方向を目指したいと思っています。

行動分析は単に問題に対しての解決法ではなく、その人に合った環境をどうやって整備できるか。具体的にはどういった環境があるのか伺いました。


人に合った環境は人がつくる


ー最近学校の現場でユニバーサルデザインのものが多く見られます。これも教室の環境をどうその子にとって快適な場所に変えていくか、色々な刺激があるものをできるだけ減らしていこうかという一つの方向なのですが、そっちにばかり目が行っちゃうんです。一人ひとり違うものがあってしかるべきだから、全員にとって良いのかは一概には言えない。以前あったことなのですが、障がいのある方が仕事をしている現場にタオルを畳む工場があったんです。最初のうちは綺麗に畳むことができるんですが、次第にモチベーションが下がってだんだんぐちゃぐちゃになってくる。これじゃ精度が悪いという職員さんがいて。その方に効果的だったのは、何十枚か畳んだら近くの職員さんに報告して、「ありがとう」って言われる。それだけなんです。それだけでずっときれいに畳めるんですよ。つまり、そういったちょっとした人的な環境ですね。それがありさえすれば本人は喜んでずっと働いてくれる。これはまさに行動分析の一つの神髄かなと思います。ただ、そういう環境をいれるのを嫌うとこだったりとか、めんどくさがるとこもある。単に線一本ひきゃいいんじゃないかなっていうやり方をうっかり目指したくなっちゃうんですよね。でも、やはり個々に接してみないと解らないこともある。教室の環境のデザインは言わば物理的な環境ですよね。そうではないちょっと人が手助けするとか、支援ってひょっとして少しの人的な支援かもしれないと思います。

人的な支援が必要だけれども、誰かに少し声をかけてもらうことで「できる」ようになる。援助してもらった結果「できる」ようになったというその環境は、何も特別なことではないと中鹿さんはおっしゃいます。


すべての「できる」は援助付き


ー障がいを持ってる方があるHP¹の中で、たくさんの頼るところを見つけていくのが自立だという言い方をしておられて、その人は車椅子で生活されているんですが、エレベーターが止まってしまうと、もう上から降りる事ができない。しかし、健常な人間はそれに代わる階段という手段を持っている。援助してもらう先とのアクセスがものすごくやりやすいし、自動的にある。いわゆるたくさんの選ぶ手段があるけれども、ハンデを持っている人はそれが全て遮断されてしまう。だから、ハンデを持っている人こそもっとたくさんの選択肢というものを明確にしていく必要があるんじゃないかということが書かれていました。私たちは決して自立してるのではなくて、たくさんの選択肢にアクセスできるんだということ。健常者の人間は一人でできるというのが自立に見えるけれど、私たちの行動って、実は様々な手がかりが用意されていたり、様々なフィードバックが返るような世界で生きているんですよね。障がいがあるとちょっとそれらが目立って見えるけど、私たちもそういう中で生きている。よく考えてみたら私たちの行動はほとんど援助付きなんだろうと。そういった意味で他立的自律というのがあり得るだろうと思います。今回の研究そのもののテーマに入っていますが、そこに他人の関与があっても自分のやりがいができるのがいいのか、それとも非常に構造化されたなかでなんだか嫌々だけどずっとやるのがいいのかっていうと、すこし人的支援が必要だけど何十枚かに一回報告受けて、ありがとうって言ってくれる環境が残っていてもいいんじゃないかっていうのが、他立的自律の考え方ですね。

中鹿さんはもともと同じ立命館大学の望月昭教授がしておられた就労支援の活動に、2007年から参加されたそうです。その活動内容をお話しいただきました。

立命館大学内模擬喫茶店舗「Café Rits」 


模擬店舗「Café Rits」でのシュミレーション


ー立命館大学内にCafé Ritsという模擬喫茶店舗があります。実際にお客さまが利用し、接客などの仕事をシュミレーションする場所です。以前、少し問題行動が多めに見られるお子さんが一度そのカフェに店員として来てくれたことがあって、たしかにちょこちょこ問題を起こすんです。だけどその中には例えば、お客さんがまだ来てないけど、あらかじめ自分で水を用意するだとか。彼はやりたがリだったから、手を出したがるんですね。そういう水の用意はスタッフがする想定だったんです。危ないものを持つと危険だから、つい周りはなんでも止めがちになりますけど、よく考えるとそういう行動の中に自分でできること広げようということがきっとあるんですよね。我々も最後、じゃあそれを認めようじゃないかという話になって。格好よく言うと、リフレーミングをして問題行動だといって全部抑えるのではなくて、もうできてることなんだから認めようと。よっぽど危ないことは止めるけれど、彼にやれることをどんどん広げるスタンスでいこうとなったんです。それが見事に適応的な行動を見せるようになって、なかなかお客さんが来ないから外に行ってお客さん来ませんか?なんていう呼び込みもしたりして。すこし危うい行動もあるんですが、それも一つありかなと。具体的には「いいね」とか「ありがとう」って言葉がけをするわけですね。行動分析の言葉でいうと強化するっていうやり方をして、それがお互いにうまくはまったんですよね。それは非常に教えられました

Café Rits (店内) 

Café Rits (客席) 


「できる」を発見し、「できる」を広げるキャリア支援


ー最近は就労支援という言葉よりも、実際に就労の支援そのものをしている訳ではないので、キャリア支援と言い直しています。できることを広げるという意味のキャリア支援かなと。普段の生活の場面だとこういう能力のお子さんだなって見られているのが、Café Ritsに来て仕事をやってもらうと、実は広がりが有り得るということをそこで発見するといいますか、もともと持っているものを見るだけなんですよ。それをこの子はこうですよと学校に情報をつけて戻ってもらうと、そんなことできるんだったらこういうことやってみようかななんて風に広がっていく。大きく言うとその人の人生が少し変わっていくかもしれないということを考えています。そういう意味でCafé Ritsっていうのはたまたま喫茶店の場ですが、本当はなんだっていいと思うんですね。ただやることが決まってないとどうしようもないので、具体的な作業を一つ入れて。良い点は、お客さまが出入りしますから、人と接する中で人から認められるだとか、人のことを気にするというその経験は良いことだと思っています。


どう援助するかを見つけるということ


最後に中鹿さんの研究と「緩やかな所属による組織活動におけるキャリアアップ支援」との結びつきを伺いました。


ーある場面でできた行動が、別の場所でもできるかというとそんなことは無いんですよね。ハトなんか場所変えると全然できない。それは当たり前で、あるABC²ででき上がったものが他所行ってできる訳がない。でも、それは逆説的に言えば変えた場所にその人に必要な環境設定がないということが明確になるということなんですね。それなら、その環境を作れば良いのでは、という話です。カフェの場でできた子達も、多分学校に帰ったら同じようにはできない。学校の先生に「これできるんじゃないかと言われてやってみたけれど、できなかったです。」と言われるなんてことはまさにこれで、カフェで上手くできたときの環境で、実はあれは必要なことだったんだと私たちも気づく。その要因を発見して伝えられることが可能になれば、相互に「できる」が回っていきますよね。私はまだ徹底できていないんですけれど、望月教授は一番重要なのは援護だと言っています。教授などの方法はだいぶ確立しているから、社会に必要な援助設定を要請する援護が一番大事だと。その援助設定を見つけるためのCafé Ritsのような試す場もその活動の一つだと思うんです。実はこんな風にできるんですよと発見し、訴える場所として。それが援護活動だし情報の意味だというのが今の私たちの想定ですね。


¹公益財団法人 東京都人権啓発センター HP 「TOKYO人権 第56号」
http://www.tokyo-jinken.or.jp/jyoho/56/jyoho56_interview.htm

²行動分析の枠組みで「先行条件-行動-後続条件」の3つの関係のこと。随伴性とも言う。

recommend
「行動理論への招待」
佐藤方哉 大修館書店 1976

行動分析学について、哲学的な背景や歴史から紹介している本です。 徹底的行動主義とはどのようなものかについての示唆に富んでいます。 刊行は古いですが内容は少しも色褪せていません。
「プログラマの数学」
結城 浩 ソフトバンククリエイティブ 2005

自実験をする際には何らかのプログラムを組むことが必要になりますが、 ちょっとした数学の知識がとても役に立ちます。 プログラムをしない人にも論理的に考えることについて教えてくれるのでお薦めです。
「応用行動分析学入門:害児者のコミュニケーション行動の実現を目指す」
小林重雄(監修)山本淳一・加藤哲文(編著) 学苑社 1997

タイトルは入門となっていますが、中身は全然入門ではありません。 行動分析のことを一通り理解したうえで読むといいと思います。 応用行動分析は、ABAという形で技法に特化したかのような言及のされ方をすることが多いですが、 この本を読むと応用行動分析は単なる技法の問題ではないことがわかると思います。
「Macintoshデータ活用術」
石田 豊 毎日コミュニケーションズ 1995

古いコンピュータ関連の本です。コンピュータ上でデータ(数値データも文字データも)を どのように扱ったらよいのかについて、学ぶことが多かったです。
「初めての心理学英語論文」
シュワーブ・シュワーブ・高橋雅治  北大路書房 1998

タイトルに心理学、英語という語が入っていますが、心理学でない分野でも日本語でも論文を書くときに役に立ちます。 論文を書く上でのさまざまな心得や、投稿するときに気をつけるべきポイントなどを教えてくれます。