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research subject
乾 明紀 / Inui Akinori
『緩やかな所属』による組織活動とそこで活動する人々の支援について

大学職員を経て、現在京都光華女子大学で教鞭をとっておられる研究代表者の乾さん。今回の研究を着想された動機について伺いました。


対人援助学会での乾さん 


働くことへの興味と能力を引き出すことの大切さを知る


もともとは大学の人事課におられた乾さんは、その中で人材教育や働き方に興味をお持ちになったそうです。


-佛教大学に勤めていた頃、職員課という人事に携わる部署にいました。働き方や人材育成というものにまず興味を持ちましたね。また、学生部に異動してからは、企業の新人教育や管理職研修をされている方と協働で、クラブやサークルのリーダーを対象とした「リーダー養成プログラム」というワークショップ形式の研修を開催したりしました。この経験も人材教育やキャリア開発などに興味を深める経験でしたね。その時に初めてコーチングに出会いました。人を引っ張るではなく、人の能力を引き出すという視点が、とても新鮮でした。その後、大学コンソーシアム京都に出向し、学生とのプロジェクトを通じて、どうすれば個人の能力をひきだせるのかということを、マネジメントする立場で実践的に考えていましたね。
その後、対人援助学の中で人を助けるためにどうすべきかを研究され、何かを教えるという教育学ではなく、学習者から見た学びの学問を創ることを目的に「学習学の創造」というテーマで研究をなさったそうです。


高校生を対象にワークショプ型授業を開催 


何を教えたのではなく、何を学んだか。


ー大学教育でもですが、教員が何を教えたかというパラダイムから学習者が何を学んだかを重視するパラダイムに変わってきています。学習の当事者をどう支援し「できること」をいかに増やすか(学習者の「できる」の拡大)が重要なテーマです。学習というのは、机の上の勉強だけはなく、様々な機会で行われます。対人援助学は、主に医療福祉領域の研究が中心でしたが、子どもから大人まで、障害の有無に関わらず、学習当事者を対象に研究しようとしたのが学習学の射程でした。

LEGOを使ってプレイフルに。 

今回の「ゆるやかな所属による組織活動におけるキャリアアップ支援」は、働く人をどう支援するかが重要なテーマになっています。介護をする方の現場を見て「緩やかな所属」に関する研究の必要性を感じたという乾さん。


現場の観察と社会の変化から「緩やかな所属」を研究テーマに


ー今やっている研究のフィールドは高齢者より障害者への訪問介護の仕事の方が多いところなのですが、派遣のヘルパーさんはいろんな人が入れ替わり立ち代わり利用者をサービスするようになっていました。ある利用者さんをサービスするのに、今日はヘルパーのAさん、明日はBさんとCさん、次の日はDさんというように。 しかも、直行直帰なのでなかなか同僚や先輩のアドバイスも受けにくいような環境でした。このような環境は、スキルも向上しにくいし、たとえ向上したとしても同僚や上司が確認しにくいものだというのがわかりました。 そこで一度、管理職の人たちにワールドカフェのようなワークショップ形式で「職場のあるべき姿」を考えてもらったんですね。そうしたら管理職の人たちから、利用者さんをサービスするヘルパーさんを固定して「支援チーム」を作ろうという話がでてきました。チームを作ることで、これまで孤立化しがちだったヘルパーさんを緩やかに結びつけることができ、利用者さんに提供するサービスの内容やそのために必要なヘルパーさんの支援スキルなどを一緒に考える機会もできてくるのではないかとのことでした。 このような提案を具現化する中で何が見えてくるのか、緩やかな結びつきの中でヘルパーさんの「できること」を増やしていくには何が必要なのか、そんなことを考える中で「緩やかな所属」というものをテーマに検討することが必要ではないかと思うようになりました。

対人援助学会の様子 

ー例えば、会社の正社員には「同期」とか「同僚」と呼べる他者の存在があったり、様々な研修が用意されていたりしますが、非正規の人はそのような他者の存在や組織の支援制度の枠外に置かれていることが多い。日常的に「できること」を認めてもらう機会が少ないのが現状です。 しかし、世の中は非正規雇用の人々の支えがますます重要になってきています。企業の世界では、生産人口の減少で労働者不足が起きていますし、行政の世界では、税金でいろいろ出来ない時代にボランティアやNPO、あるいはプロボノなどの力を借りないといけないようになっています。 企業であれ、非営利団体であれ、非正規雇用の人々やボランティアと緩やかな関係性をうまく構築しなければいけない時代になったといえます。このような問題意識からも「緩やかな所属」をテーマに研究することには意義があると思い科研費¹の研究助成に申請した訳です。


人々がアクティブラーナーになるために


支援を受けにくい人たちのために今回の研究では、参考になる情報を提示していくことを目標にしておられます。参加型のワークショップや、特にウェブを使って情報を開示することを中心に行っていくそうです。

対人援助学会でのファシリテーショングラフィック 

ーこれも大切な研究テーマのひとつなのですが、人々がアクティブラーナーになるためには、参考にできる情報をリアル空間でもネット空間でも提供する必要があると思っています。ワークショップも様々なものが開発されてきましたので、機能を整理しながら実践もしていきたいと思っています。情報や場を提供し、人々の試行錯誤を高めたり支援したりすることも研究テーマのひとつだと思っています。


¹科学研究費助成事業:(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)は、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる 「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究資金」であり、ピア・レビューによる審査を経て、独創 的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/より
recommend
「あんばんまん」
やなせたかし フレーベル館 1976

本当の正義は、ヒーロー型のように敵を倒すマッチョではなく、“あんぱんまん”のように、自ら傷つくことを覚悟しつつ困っている人に必要なものを届けるというのが作者のメッセージです。教員としていろいろな人を支援するときに、傷つくこともあるのですが、支援には、そんな痛みが付き物であることを教えてくれた1冊です。
行動分析学研究 8(1), 4-11「「正の強化」を手段から目的へ」
望月昭 日本行動分析学会 1995

この研究の基盤となっている論文といってもいいでしょう。行動分析学の持つ倫理観・価値観に基づく対人支援の視点が書かれている。
→CiNiiへ(外部サイト)
「臨床行動分析のABC」
ユーナス・ランメロ+ニコラス・トールネケ著 松見淳子監修 武藤崇+米山直樹 監訳 日本評論社  2009

行動分析学を理解するための本は数多くでていますが、行動を分析するときの重要な点がわかりやすく紹介されている一冊です。始めてこの本を読んだとき、どうしてこんなに説明がうまいのだろうと感心したことを覚えています。優れた行動分析家である筆者(監訳者も含めて)は、読者の読むという行動がどうすれば強化されるのかを適切に分析することができるので、読みやすい内容を書くという行動を起すことができるのでしょうね。
「挫折した成長戦略 なぜ雇用改革は進まないのか」
池田信夫×小幡績×城繁幸 アゴラ研究所,言論アリーナ 2013

これは、映像資料で、アゴラ研究所の「言論アリーナ」です。非正規労働者の問題を政府・政策の視点から議論しています。映像なのでわかりやすく問題点を整理できると思って推薦しました。47分ごろからは提言的なものが聞けます。提言は要するに、経済のパイが拡大しない環境で正社員を増やしたり給与を上げたりするのは難しい。また、労働者の権利を守るだけの戦略・政策だけでは問題を解決できない。 加えて、小幡氏は、社会で人を育てる仕組みを創ることこそ成長戦略だと述べ、城氏は、終身雇用に戻すことは現実的でなく、ブラック企業はそのあだ花だと述べています。さらに、政治家は非正規雇用の現状をもっと丁寧に見ろと主張しています。
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