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research subject
荒木 寿友 / Araki Kazutomo
関係性づくりのワークショップ
「ゆるやかな所属による組織活動におけるキャリアアップ支援」においてワークショップはどんな役割を果たすのか?その可能性を伺いました。

ミャンマーでの教員支援ワークショップ 

関係性をつくるワークショップ


現在、立命館大学でワークショップ、対話、教育方法を研究している荒木さん。もともと大学で教育課程や教育方法を学ばれており、中でも道徳の研究をなさっていたそうです。


ー卒論から博士論文までずっとコールバーグという人の研究をしていました。このコールバーグという人の考え方は、正直さや親切さなどといった価値内容を教えるよりも、どうしてそういう風に考えたのかという、考え方や理由付けの方を発達させる方がいいんじゃないか?というのがメインの考え方なんです。実際の現実生活の中で子どもたちに起こっている問題を、子どもたちと一緒に考えて解決していく。その中で良いコミュニティーをつくっていき、且つ個人の道徳性も上げていこうというようなよき集団づくりが僕の道徳研究のメインになっていきました。
考えや経験を語り合える、よき集団づくりが個人の能力を引き出すきっかけになるのではという荒木さん。ワークショップに出会って自身が学ばれていた道徳とワークショップが結びついたと言います。


ー以前の勤務先である同志社女子大学で上田信行さんに出会い、初めてワークショップというものみて、「なんだこれは?」と思いました。そこからワークショップの勉強を始めて十何年になります。ワークショップって、何のためにやるのかなと考えていると、その場に来ている参加者が繋がったり、参加者同士がアイデアを出し合ってそれを実現させたりしていくその関係性ができるのがワークショップなのかなと。しかもそれは、自分たちが抱えている問題を共有しながら一緒になって解決していくという、もともと僕がやっていた道徳なんじゃないかというところに繋がってきたんですね。例えば、社会科とか開発教育とかある程度目的がはっきりしている教科教育の中で、こういう知識内容を獲得させようとか、こういうところに気づかせようというWSもあれば、集団をつくっていくというような、いわゆる中身よりも態度といったものもあれば、WSを通じて問題解決能力を育てようというWSも当然あるわけで、いずれにせよ、根底にあるのは協働で問題解決しようというのがあるので、関係性が成り立たないとWSってそもそも成り立たないんですよね。そういった意味では、もっとも根底にあるのが関係性づくりなのかなという気はしますね。


かっこいい大人をつくりたい


ミャンマーの子どもたちとワークショップ 

2013年、荒木さんは立命館大学の学生たちを中心に「En lab.」を立ち上げました。


ーNPOを立ち上げて、子どもとWSしたりとか、大人を巻き込んでWSしたりとか、ミャンマーの教員育成したりと、そんな活動内容なのですが、目的はかっこいい大人をいかに増やすかということをしています。 子どもに対してWSしていても、1ヶ月に1回のWSをしたからといって、子供たちが急激に変わるかといったら、そんなに変わるものではないですし、逆に変わってしまう方が恐い。むしろそれに関わっている大人、NPOのスタッフが民間企業や、学校現場、親になったりと、そういう長期に渡って子どもと接する環境の中で、子どもに対して胸を張れる大人が増えていった方が、直接子どもに働きかけるよりも普段子どもと関わっている大人に対してもうちょっと上手くアプローチできた方がいいと思い立ち上げました。

創発するような環境を構造化する


そんな国内外で数多くのワークショップを実施してきた荒木さんですが、主催する側にとってのWSの一番面白いところはどんなところなのでしょう?


ー実は参加者がもう答えを持っていて、それに気付いて答えが出てくるように僕らはどれだけお手伝いできるかっていうのがWSの一番面白いところだと思います。答えの出やすい環境を僕らが整えてあげる。それはテーブルの形もそうですし、どんな音楽流すか、その時の天気もそうかもしれない。場づくりには入念な準備がいりますね。場づくりに9割くらいの力を注いで、始まってしまえば参加者の意向に沿うようなWSが好きなんですよ。非常に構造化しているけれど、始まってしまえば非構造化なんですよね。

雲ヶ畑での自然体験遊び 


EN.lab.での失敗

参加者同士がよい関係の中でなにかに気づき、問題解決・成長できるようにきっかけを用意する。中にはそのきっかけづくりが思うようにいかないこともあるそうです。しかし、その失敗も許される場所がワークショップとおっしゃいます。


ーEN.lab.スタッフの企画で子どもたちにWSをした時に非常におもしろい結果になりまして、場づくりから何からスタッフが結構綿密に決めて準備していたのですが、場づくりというより、ここはこういう世界ですよという世界観を子どもたちに押し付けてしまった。それが子どもたちに馴染まなかったんですね。そのあとのプログラムが全部崩壊するような形になっていまいまして、うまくいかなかったんです。スタッフも子どもたちが全然動かなくなってしまったのを唖然としてみている状況でした。綿密につくり込めばつくり込むほど、それに合わないと思った子どもたちが出てきて自由な行動を始めてしまった。綿密な準備をすることは大事で、決して無駄なことではないんですが、子どもたちが好き勝手な動きを始めた時にどう立て直すんだということを必死に考えていました。スタッフたちはそこですごく力はついたと思いますね。ワークショップというのはつくられた空間なので、現実のようで現実ではないというところがあるから、そういった意味ではいっぱい失敗することは許される場であるし、WSという場の中で大人でも子どもでも失敗してもいいと思うんですよ。そこで失敗したことを踏まえてじゃあ現実の世界でどういう風にしていけばいいのかなということもまた同時に参加者に考えてもらう。

もくもく大作戦集合写真 


ファシリテーターと参加者が入り乱れる「ワークショップ3.0」


ー過去二年間「ワークショップ3.0」というイベントをやらさせていただきました。この3.0というのは、前提として、コンテンツと目標が決まっていて、知識なりを身につけるすごくはっきりしたものを「ワークショップ1.0」、目標をある程度曖昧にして場づくりはするけれど参加者がその場で答えを紡ぎ出していくような形を「ワークショップ2.0」として、それとはまた別のWSってなんだろうかと。さらに抽象度が高くて、即興性や創造性がその場にならないとわからないような、その時の参加者がやりたいことに応じてファシリテーターがその場で決めて行うものを「ワークショップ3.0」という形にしたものです。

ーワークショップをしていてよく、「一体これは子どもに何の力がつくんですか?」と言われることがあります。それも大切なんですが、教科教育や教科内容と結びつけると、どうしても指導案のようになってしまいます。そうすると参加者や子どもたちの自由度が狭められたり、制限されることも大きくなってしまいます。最近21世紀型能力やコンピテンシーという言葉がでてきて、思考力や実践力とか汎用性スキルが求められることを考えると、ワークショップの自由度は上がってきている。自由度が高いワークショップをやることによって、問題解決の力や、論理的に考える力。実際の現実生活の中でそれを活用できるような力とか、ちょっと抽象度が増せば増すほど「ワークショップ2.0」や「ワークショップ3.0」に当てはめやすくなると思います。

ワークショップ3.0の風景 

今までは教える側と教えられる側。主催する側と主催される側。ある程度固定化されたり、構造化されていました。しかし、固定化されてしまうと抜きんでることができない。そこで入り乱れることで何か新しいことができてくるのでは。と荒木さんは考えます。


ー入り乱れるからこそ主催者側としてのファシリテーターは、多分もっとたくさんのことに気を回さなくてはならないし、何かしらのマニュアルを知っているからできるというわけでもなくなってきている。その場の臨機応変さが大事になっていく中で、そういうことを育てるにはどうすればいいのかというのが、今の研究テーマだったりしますね。その時の参加者をどう見るか、自分がどう行動していくかという鑑識眼を育てるのがますます大事になってくると思いますね。ワークショップにおいて3.0のようなWSだけをやれば良いということではなくて、1.0、2.0、3.0、それぞれ目的に応じて使い分けることが大事だと思います。

この研究においてのWS


最後に「緩やかな所属による組織活動におけるキャリアアップ支援」において、ワークショップがどのように役立つのか伺いました。


ーヘルパーさんの世界や福祉の世界のコンテンツおいては僕はずぶの素人なので、僕が何か答えを教えるような役割ではないと思ってます。むしろ参加したヘルパーさんがWSの中で自分で答えに気づき変われるような、できることをいかに増やしていくか。WSによって育っていく手助けができるのではないかというところに魅力を感じていますし、それが私の役割だと思っています。
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荒木さんってアドラーの影響を受けてるの?と言われたのが2015年の初め。 残念ながらそれまで一度も彼の思想を学んだことはなかった。 が、そう言われると気になるもの。早速読んでみた。 確かに、勇気づけの話などすべてがすっと入ってくる。 子どもに関わる人にはアドラーの原典にあたってもらいたいなぁと思う。その一冊。
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